2月11日(日)、東京競馬場で3歳馬によるGⅢ共同通信杯(芝1800m)が行なわれる。 このレースは3歳クラシックと関連性の高いレースで、2021年の勝ち馬エフフォーリアと2022年の2着馬ジオグリフは続くGⅠ皐月賞(中山・芝2000m)を制覇。また、2021年の3着馬シャフリヤールはGⅠ日本ダービー(東京・芝2400m)を制覇と、勝ち負けに限らず大成する馬が多い。勝ち馬だけでなく、敗れた馬の内容もよく見ておくべきレースだ。 レースを血統的視点から占っていこう。過去の好走馬の血統を見ると、注目すべきはハーツクライの血だ。共同通信杯にはこれまでに直仔9頭が出走していて、2017年のスワーヴリチャード、2022年のダノンベルーガで2勝しているほか、2着1回、3着1回で勝率22.2%、連対率33.3%という好成績。さらに母の父としても、2021年にエフフォーリアが勝利している。 ハーツクライ産駒はドウデュースとワンアンドオンリーが日本ダービー、ヌーヴォレコルトがGⅠオークス(東京・芝2400m)、シュヴァルグランとスワーヴリチャードがGⅠジャパンC(東京・芝2400m)を勝利するなど、東京コースでの快走が多いが、共同通信杯でも同様の傾向が見られる。 今年はハーツクライ産駒の登録はないが、後継種牡馬スワーヴリチャード産駒が2頭出走を予定している。前述のように、スワーヴリチャードはこのレースの勝ち馬であり、日本ダービーで2着、ジャパンCを勝利と、東京コースの適性は非常に高い。 初年度産駒は現3歳で、昨年は新種牡馬チャンピオンとなった。GⅠホープフルS(中山・芝2000m)勝ち馬のレガレイラのほか、東京コースではコラソンビートがGⅡ京王杯2歳S(東京・芝1400m)、アーバンシックが百日草特別(東京・芝2000m)を勝つなど東京コースでも好成績を残している。また、1800mの距離も得意条件で、芝の全21勝中最多の9勝が1800m。コースも、東京で最多の6勝を挙げており、東京・芝1800mは合う条件だ。 今回はスワーヴリチャード産駒が2頭出走を予定しているが、筆者が上に見るのがショーマンフリート(牡3歳、美浦・手塚貴久厩舎)だ。同馬は昨年9月、中山・芝1600mの新馬戦で3番手追走から抜け出し、2着以下に2馬身半差をつけて快勝。続く前走のGⅢシンザン記念(京都・芝1600m)は5着だった。 新馬戦は1000m通過が60秒5と1600mにしてはスローペースで、距離が延びても問題なさそうな走りを見せていた。前走のシンザン記念は約4カ月ぶりの実戦で体重は18kg増と余裕のある仕上げで、外めの16番枠だったこともあり外を回るロスがあったのに加え、1000m通過58秒4と新馬戦よりハイペースだったこともあり、流れに乗れていない感もあった。ひと叩きして展開も変われば勝ち負けできるはずだ。 母の父シユーニは、昨年のGⅢ京都2歳S(京都・芝2000m)を勝ったシンエンペラーの父としても注目を集めており、その父ピヴォタルは2020年のこのレースの勝ち馬ダーリントンホールの母の父でもある。父系のみならず、母系の血もこのレースと縁があるということで、勝利に期待したい。 もう1頭も、スワーヴリチャード産駒のパワーホール(牡3歳、栗東・昆貢厩舎)を推す。同馬はGⅢ札幌2歳S(札幌・芝1800m)で2着に入った実績馬。前走の京都2歳Sは12着で、それ以来約3カ月ぶりの出走となる。 おばには、GⅡフローラS(東京・芝2000m)勝ち馬のミッドサマーフェア、昨年のGⅢターコイズS(中山・芝1600m)を勝ったフィアスプライドがいるなど活気がある牝系だ。ちなみに、馬主のNICKSは父スワーヴリチャードの馬主でもあり、同馬主による父仔制覇に期待する。 以上、今年の共同通信杯は、スワーヴリチャード産駒の2頭、ショーマンフリート、パワーホールの2頭に注目したい。
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2月24日(日本時間2月25日未明)、注目の海外GIサウジカップ(ダート1800m)をメインに据えた国際招待競走『サウジカップデー』が、サウジアラビアの首都リヤド郊外にあるキングアブドゥルアジーズ競馬場で開催される。 今年で5回目の開催と歴史は浅いものの、先述したメインのサウジカップは総額2000万ドル(約30億円。※1ドル=150円で換算。以下同)という破格の高額賞金レースで各国から実力馬が集結。すでに世界中にすっかり浸透している一戦だ。 昨年は、日本調教馬のパンサラッサが逃げ切り勝ち。創設4年目にして、早くも日本に賜杯がもたらされた。 そして今年も、昨年度のJRA賞最優秀ダートホースに輝いたレモンポップ(牡6歳)をはじめ、ウシュバテソーロ(牡7歳)、デルマソトガケ(牡4歳)、クラウンプライド(牡5歳)、メイショウハリオ(牡7歳)と、日本ダート界のトップホース5頭が参戦。さらに今年から日本でも馬券が発売されることとなり、俄然注目度は増している。 振り返れば、昨年度JRA賞の最優秀ダートホース部門においては、GIフェブラリーS(東京・ダート1600m)とGIチャンピオンズC(中京・ダート1800m)を制したレモンポップと、海外GIのドバイワールドカップ(UAE・ダート2000m)で日本調教馬として2頭目の戴冠を遂げたウシュバテソーロとで、記者投票の票が割れた。 実は、意外にもこの2頭の直接対決はこれまでに一度もない。それだけに、どちらに投票すべきか、頭を悩ませた記者も多かったようだ。その雌雄を決する舞台がいよいよ訪れるのである。 日本では先週、「ダート王決定戦」となるGIフェブラリーS(2月18日)が行なわれた。結果は、11番人気のペプチドナイル(牡6歳)が低評価を覆して勝利を飾った。 ただ、そうした波乱の結果は、ある程度事前に想定されてはいた。地方在籍馬を含めて地方交流GIの勝ち馬が4頭、芝GI馬も2頭いたとはいえ、今回のサウジカップデーに出走するメンバーは不在。多くの馬に勝つチャンスが広がり、「ダート王決定戦」と言うにはかなりの手薄感があったことが否めなかったからだ。 結局、こうした状況に至ったのは、ダートの一線級の視線、目標が完全に海外へ向いてしまった弊害とも言えよう。 その理由はいくつかある。 まずは冒頭でも触れたように、賞金的な魅力だ。今回のサウジカップなら、1着賞金が1000万ドル(約15億円)。2着でも350万ドル(約5億2500万円)、3着でも200万ドル(約3億円)、5着でも100万ドル(約1億5000万円)。対して、フェブラリーSの1着賞金は1億2000万円である。 しかも、サウジカップは高額な出馬登録料の必要がない。輸送費もサウジアラビア側の負担による招待制だ。 また、3月に控える海外GIドバイワールドカップも、出馬登録料こそ発生するが、招待競走。1着賞金は696万ドル(約10億円)だ。 毎年秋に開催される海外GI、アメリカのブリーダーズカップクラシック(アメリカ・ダート2000m)にしても、1着賞金は312万ドル(約4億6000万円)。あまり知られていないが、こちらも主催者が最低約600万円の遠征費用を補助してくれる。 こうした賞金差だけでも、実績のある馬が海外へ目を向ける理由としては十分だ。 加えて、かつては日本調教馬にとって「遠いもの」と思われていた海外のダートGIの勲章が、手の届く位置にあることを実感できるようになったことも大きい。 近年、世界各地での日本調教馬の好走が目立つようになり、昨年に至っては、サウジカップでパンサラッサが勝利。ドバイワールドカップではウシュバテソーロが鮮やかな追い込み勝ちを決めた。 さらに、地方所属馬のマンダリンヒーローがアメリカのGIサンタアニタダービー(アメリカ・ダート1800m)でハナ差の2着と奮闘。同じくアメリカのブリーダーズカップクラシックではデルマソトガケが2着、ウシュバテソーロが5着と健闘した。 こうして勝利の現実味が増せば、一線級の馬たちの海外志向が高まるのは当然か。 そのうえ、サウジアラビア、ドバイといった中東圏での大レースでは、ダートの本場であるアメリカの超一線級の参戦が最近は少なくなりつつある。となれば、勝つチャンスはより大きくなる。海外競馬メディアの記者が語る。 「サウジカップでも、今はサウジアラビアの王族などが現役で権利を買ったアメリカの一流馬たちが参戦していますが、それ以外は中東への遠征を避ける傾向が見られます。そうなると今後、より日本調教馬の独壇場になっていくことは十分考えられますし、もしかするとサウジ王族からトレードのオファーが出てきても不思議ではありません」 こうした傾向から、日本ダート界のトップクラスの海外志向はより加速していくだろう。つまり今後、日本の真の「ダート王決定戦」は海外が舞台になる、と言ってもいいかもしれない。 さて、事実上の「日本のダート王決定戦」といった様相のある今回のサウジカップだが、今年から大きな変化がある。昨年までは粉砕した松のチップが混ぜられたダートだったが、今年はシーズン開幕前の昨年9月に混ぜ物のない砂に入れ替えられたのである。 ウシュバテソーロの手綱を取る川田将雅騎手は事前の馬場入りを経て、こう語った。 「昨年よりちゃんとしたダートになって、パワーの要る馬場になったと思います」 続けて川田騎手は、ウシュバテソーロにとって勝敗のカギとなるポイントについて触れた。 「ウシュバテソーロは今まで2ターンのコースで、最初の1~2コーナーを過ぎて向こう正面に入ってから『そろそろいくか』という競馬をしてきた。それが今回は、そうではなくてワンターン。それをウシュバテソーロがどう理解するか。気持ちが大事な馬なので、彼自身が走る気持ちを出してくれるかどうか」 他の日本調教馬の状況はどうか。デルマソトガケは輸送中に顔面を負傷してしまったという。 「誰も見ていないので断言できないけど、同じストールの馬に噛まれてしまったのか……」とは、同馬を管理する音無秀孝調教師。幸いにして腫れは引いたが、「精神的に馬を怖がるようになっていなければいいが……」と不安をのぞかせた。 また、本来は暮れの地方交流GI東京大賞典(12月29日/大井・ダート2000m)を使ってここに臨むプランだったが、爪の不安から昨秋のブリーダーズカップクラシック以来のぶっつけとなった。そのブリーダーズカップクラシックも休み明けで「3~4コーナーの反応が鈍かった」というだけに、懸念は増している。 レモンポップはいい状態を保っているが、陣営も認めるように1800mという距離が不安要素。さらに今回は、アメリカ勢に出脚の速い馬がそろった。それらに執拗にマークされる展開になると厳しいか。 一方、そのアメリカ勢のなかで有力なホワイトアバリオ(牡5歳)は万全の態勢。「(勝利したとはいえ)ブリーダーズカップクラシックの前は100%の出来ではなかった。今のほうが100%に近い」と、リチャード・ダトロー調教師も太鼓判を押す。 はたして、今年はどんな結末が待っているのか。日本調教馬が再び頂点に立ち、日本だけでなく、世界ナンバーワンのダート王として君臨することができるのか、注目である。
今年も数多くの良血馬がデビューしてきた2歳戦線だが、これから初陣を迎える馬のなかにもまだ、多大な関心を集めている良血馬がいる。 その1頭が、栗東トレセンの中内田充正厩舎に所属するダノンモンブラン(牡2歳/父ロードカナロア)である。 同馬の姉は今年、史上7頭目の三冠牝馬となったリバティアイランド(牝3歳/父ドゥラメンテ)。デビュー戦の2歳新馬(新潟・芝1600m)で上がり31秒4という驚異的な時計をマークして快勝すると、2戦目のGIIIアルテミスS(東京・芝1600m)ではクビ差の2着と惜敗するも、続くGI阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神・芝1600m)では鮮やかな勝利を飾って2歳女王に輝いた。 3歳になって挑んだ牝馬三冠初戦のGI桜花賞(阪神・芝1600m)も、圧巻の勝ちっぷりだった。4コーナーでは18頭中16番手の位置にいながら、上がり32秒9の豪脚を繰り出してライバルたちを一蹴。次戦のGIオークス(東京・芝2400m)でも危なげないレースを見せて、後続に6馬身差をつける完勝劇を演じた。 牝馬三冠最終戦のGI秋華賞(京都・芝2000m)も、単勝1.1倍という断然の支持を受けるなか、その期待に見事応えて勝利。直線に入った時には早くも先頭に立ち、そのまま押しきって牝馬三冠を達成した。 その後、ファン待望のイクイノックスとの夢の対決を実現すべくGIジャパンC(東京・芝2400m)に参戦。結果的に”世界最強馬”には及ばなかったものの、2着と力を示して、古馬になってからのさらなる活躍が期待されている。 そんな今の時代を代表する名牝の弟として注目されているのが、ダノンモンブラン。姉に続いてこの馬を管理する厩舎スタッフは、どんな感触を得ているのだろうか。関西競馬専門紙のトラックマンがその様子を伝える。 「ダノンモンブランについて、スタッフは『姉と比較するのはさすがに気の毒だけど、ポテンシャルを感じる1頭だと思う』と話しています。体つきについても『馬格があって、力強さを感じる』とのこと。能力については、一定の評価を与えています」 気性面についてはこんなコメントが聞かれたようだ。トラックマンが続ける。 「同馬の性格については、『(走ることに対する)前向きさを持っています。それでいて、コントロールも十分に利きます』とスタッフ。前進気勢と折り合いのバランスがいい、ということではないでしょうか」 11月29日にゲート試験に合格したあと、現在は放牧に出ているダノンモンブラン。三冠牝馬の弟はどんな走りを見せるのか、デビューの日が待ち遠しい。
2月25日(日)、中山競馬場で4歳以上馬によるGⅡ中山記念(芝1800m)が行なわれる。 このレースは、今年で98回目を迎える伝統の一戦。多くの名馬が勝ち馬に名を連ねており、2022年の勝ち馬パンサラッサは続くGⅠドバイターフ(メイダン・芝1800m)を勝ち、昨年もGⅠサウジC(キングア・ダート1800m)を勝つなど世界の大舞台で華々しい活躍を見せた。 今年も豪華メンバーが揃った。ともにGⅠ皐月賞(中山・芝2000m)を制したジオグリフ(2022年)とソールオリエンス(2023年)、昨年と3年前の中山記念勝ち馬ヒシイグアスなどが出走を予定している。 血統的傾向として目立つのが、ハーツクライ産駒の好成績だ。過去10年で10頭が出走し、2014年ジャスタウェイ、2015年ヌーヴォレコルト、2021、23年ヒシイグアスと3頭で4勝している。同じサンデーサイレンス後継で、同タイプのディープインパクト産駒が20戦して1勝、2着1回という成績とは対照的だ。 今年はヒシイグアスをはじめ、3頭のハーツクライ産駒が出走予定。中でも筆者が注目しているのがイルーシヴパンサー(牡6歳、美浦・久保田貴士厩舎)だ。 同馬は昨年のGⅢ京都金杯(京都・芝1600m)、2022年のGⅢ東京新聞杯(東京・芝1600m)と、芝1600mの重賞を2勝。前走のGⅠマイルチャンピオンシップ(京都・1600m)では、勝ったナミュールから0秒3差の6着に敗れた。全6勝が東京の4勝を含む左回りだが、中山では4戦して2着2回。今回と同じ1800m戦ではGⅡスプリングS(中山・芝1800m)4着、昨年のこのレース8着という成績が残っている。 昨年の中山記念は、道中は5番手の好位を進み、直線入り口で先頭を射程圏に入れながら、直線の攻防で前も左右も壁になって追えないという致命的な不利を受け、脚を余してしまっていた。スムーズなら突き抜けていてもおかしくない脚いろだったため、今回はあらためて見直したい。 左回り巧者のイメージがあるのであまり人気にはならないだろうし、昨秋の走りからも、ここで勝ち負けする力も残っていることがうかがえた。昨年の勝ち馬ヒシイグアスは7歳だったので、6歳ながら今回が17戦目とキャリアも少ない本馬には十分チャンスがあるはずだ。 もう1頭もハーツクライ産駒からボーンディスウェイ(牡5歳、美浦・牧光二厩舎)を推す。同馬は重賞未勝利でやはり人気は集まりにくそうだが、全4勝中3勝が中山という”コース巧者”。昨年の暮れには同じ中山・芝1800mの常総Sを勝利し、前走のGⅢ中山金杯(中山・芝2000m)は4着。2歳時にはGⅠホープフルS(中山・芝2000m)5着、3歳時にはGⅡ弥生賞ディープインパクト記念(中山・芝2000m)3着と重賞での好走歴もある。 母ウィンドハックはドイツ産で、GⅡ伊1000ギニー(芝1600m)の勝ち馬。母の父プラティニもドイツ産で、ドイツとイタリアでGⅠを勝っており、GⅠ日本ダービー(東京・芝2400m)やGⅠ天皇賞・秋(東京・芝2000m)を勝ったエイシンフラッシュの母の父でもある。 ハーツクライとドイツ血統は相性がよく、本馬が母系に持つズルムーは、GⅠ朝日杯フューチュリティSを勝ったサリオスも持つ血だ。エイシンフラッシュもサリオスも5歳まで一線級で活躍した成長力を持っていたため、本馬にも5歳春の素質開花に期待する。 以上、今年の中山記念はハーツクライ産駒イルーシヴパンサー、ボーンディスウェイの2頭に注目する。
関東の舞台は今週から中山競馬場へ。その開幕週には伝統の重賞、GII中山記念(2月25日/中山・芝1800m)が行なわれる。 およそ1カ月後に行なわれるGI大阪杯(3月31日/阪神・芝2000m)の前哨戦といった位置づけであると同時に、3月末のドバイワールドカップデーをはじめ、4月半ばに行なわれるシドニーのGI競走や、4月末の香港チャンピオンデーといった海外の大舞台に向けて、有力馬が始動するレースでもある。 その分、実績のある実力馬も数多く出走するが、意外にもそうした人気馬は苦戦傾向にある。過去10年の結果を振り返ってみても、1番人気は3勝したのみ。それ以外はすべて馬券圏外に沈んでいる。おかげで、3連単ではオイシイ配当がしばしば生まれている。 はたして、今年はどうか。メンバー構成を見渡して、スポーツ報知の坂本達洋記者はこう分析する。 「毎年のことではありますが、レースの行方を占ううえでは、明け4歳の有力馬と古豪との力関係がポイントになります。そして今年も、魅力的な明け4歳馬が参戦してきました。 なかでも、昨春のGI皐月賞(中山・芝2000m)で戴冠を遂げたソールオリエンス(牡4歳)と、4連勝でGII毎日王冠(10月8日/東京・芝1800m)を制してGIマイルCS(11月19日/京都・芝1600m)でも4着に健闘したエルトンバローズ(牡4歳)が人気を集めそうで、主役候補となるでしょう。 一方のベテラン勢は、明け8歳となりますが、過去にこのレースで2勝を挙げているヒシイグアス(牡8歳)が怖い存在。前走の海外GI香港C(12月10日/香港・芝2000m)でも僅差の3着と力の衰えは見せていません。 さらに、鞍上は短期免許で来日中のレイチェル・キング騎手。年が明けてからの重賞レースですでに2勝を挙げるなど、日本競馬にも対応して腕達者なところを見せています。まともなら、侮れません」 今年も好メンバーがそろったが、坂本記者は馬券戦略においては、実力だけではない部分にもしっかり目を向けるべきだと言う。 「ズバリ、馬場です。中山記念の馬券的中のカギはそこにあります。2回中山開催の開幕週に行なわれる一戦で、年末年始に荒れた芝も回復。セオリーどおり、逃げ・先行馬が有利な傾向があります。 昨年は逃げたドーブネが3着に粘って、一昨年にはのちに海外GIのドバイターフ(UAE・芝1800m)やサウジC(サウジアラビア・ダート1800m)で優勝したパンサラッサが鮮やかな大逃げを決めています。過去10年の結果を見ても、昨年を除いて勝ち馬はすべて4角4番手以内でした。 昨年勝ったヒシイグアスにしても、4角8番手だったとはいえ、一団の馬群で先行勢に近い位置につけていました。そこからうまくさばいて抜け出してきたもので、大外から差してきたわけではありません。いずれにしても、前でうまく立ち回れる馬にチャンスがあると考えています」 馬場という点においては、今年は週末の天気が気になるところだが、そのあたりの影響はどうなのか。坂本記者はこう語る、 「今週、関東地方は週中から雨が降り、開催当日も天気が崩れる予報です。昨年の1、2着馬であるヒシイグアスとラーグルフ(牡5歳)は、ともに道悪が苦手なタイプ。また、ソールオリエンスは道悪の皐月賞を勝ちましたが、今回も後方からまくる競馬になりそうなので、開幕週の馬場で届くのか、微妙なところです。 こうして有力馬に懸念があるとすれば、馬券的には穴党の出番があると踏んでいます」 そこで、坂本記者は想定される馬場を味方にして浮上しそうな伏兵2頭を穴馬候補としてピックアップした。 「1頭目は、ボーンディスウェイ(牡5歳)です。2走前の3勝クラス・常総S(12月9日/中山・芝1800m)を勝ってオープン入りしたばかりですが、前走のGIII中山金杯(1月6日/中山・芝2000m)でも好位2番手から4着。勝ち馬にコンマ3秒差と見せ場十分の内容でしたから、重賞でも通用する目処が立ったと見ていいでしょう。 持ち前の先行力で開幕週の馬場も歓迎のクチ。そもそも中山コースで3勝を挙げている中山巧者です。2歳時にもGIホープフルS(中山・芝2000m)で10番人気ながら5着と健闘。中山では本当によく走りますね。 最終追い切りでも美浦のWコース単走で、6ハロン79秒1-ラスト1ハロン11秒6の好時計を馬なりでマーク。調子はよさそうです。手綱をとった木幡巧也騎手も『先週の時点で結構仕上がっていましたが、そのなかでリズムよく、抑えも利いて、仕上がりはとてもいい』と納得の感触だったようです。牧光二調教師&木幡巧也騎手の”師弟コンビ”での重賞Vに期待がかかります」 坂本記者が推奨するもう1頭は、果敢な逃げを武器とするテーオーシリウス(牡6歳)だ。 「こちらも脚質面から注目したい1頭です。今回のメンバーのなかにあっては、何が何でもハナを主張してくるであろう馬で、決して軽く見てはいけないと思います。 前走のGIIIチャレンジC(12月2日/阪神・芝2000m)は12着惨敗でしたが、大外枠発走の不利に加え、道中もマークしてきたフリームファクシに早めにこられて厳しい展開を強いられました。 ただし、ハマれば常に大駆けが期待できる存在。3走前のGIII小倉記念(8月13日/小倉・芝2000m)では、それこそ夏の開幕週の馬場を生かして、2着に逃げ粘ってみせました。 展開に左右される面はあるものの、今回も迷わずハナを主張するはず。馬場を味方にしてすんなり運ぶことができれば、あっと言わせるシーンがあってもおかしくありません」 春の大一番へ向けて、注目の一戦。期待の有力馬がここをステップにして、さらなる飛躍を遂げるのか。それとも、思わぬ馬が台頭し、”荒れる”GI戦線へと突入していくか。ゲートインはまもなくである。
JRA・GIの皮切りとなるフェブラリーステークスの前に、年間の平地GI全24レースの勝ち馬を予想するこの企画。今年で4回目の実施となる。過去3年を振り返ると、初挑戦の2021年は24レース中5レースで的中。2022年の的中は2レースのみ。それが2023年は7レース的中と巻き返した。 今年は、クラシックも古馬戦線も、主役不在の大混戦の様相を呈している。それだけに難しそうだが、過去3年同様、寸評と自信度(A、B、C)をつけて、勝ち馬を予想したい。 クラシック戦線の本命は?【フェブラリーS~皐月賞】 フェブラリーステークス(2月18日、東京ダート1600m) ウィルソンテソーロ(牡5歳、父キタサンブラック、美浦・小手川準厩舎) 昨年のチャンピオンズカップと東京大賞典でともに2着。レモンポップとウシュバテソーロが中東遠征で不在のここなら。(A) 高松宮記念(3月24日、中京芝1200m) ママコチャ(牝5歳、父クロフネ、栗東・池江泰寿厩舎) 昨年のスプリンターズステークスでGI初制覇。鹿毛だが、白毛の女王ソダシの全妹。この牝系は、得意の距離で長く強さを発揮する。(B) 大阪杯(3月31日、阪神芝2000m) ソールオリエンス(牡4歳、父キタサンブラック、美浦・手塚貴久厩舎) 昨年の皐月賞で見せた豪脚は本物。完成は今年の秋以降かもしれないが、現時点でも2000mなら現役最強クラス。(B) 桜花賞(4月7日、阪神芝1600m) アスコリピチェーノ(牝3歳、父ダイワメジャー、美浦・黒岩陽一厩舎) 昨年、3戦3勝で阪神ジュベナイルフィリーズを制し、2歳女王に。勝負強さは父譲りで、父以上の切れ味が身上。(B) 皐月賞(4月14日、中山芝2000m) ジャスティンミラノ(牡3歳、父キズナ、栗東・友道康夫厩舎) 好メンバーの共同通信杯を完勝。ポジションを取りに行っても折り合えるのはクラシック向き。(A) 「これ強いよ」鹿戸調教師が興奮した逸材【天皇賞・春~日本ダービー】 天皇賞・春(4月28日、京都芝3200m) ドゥレッツァ(牡4歳、父ドゥラメンテ、美浦・尾関知人厩舎) 昨年、5連勝で菊花賞を優勝。大外から出して行って折り合い、直線で突き抜けた。世代最強はこの馬か。(A) NHKマイルカップ(5月5日、東京芝1600m) ジャンタルマンタル(牡3歳、父パレスマリス、栗東・高野友和厩舎) 昨年、3連勝で朝日杯フューチュリティステークスを制するも、共同通信杯では掛かって2着。マイルがベストか。(B) ヴィクトリアマイル(5月12日、東京芝1600m) リバティアイランド(牝4歳、父ドゥラメンテ、栗東・中内田充正厩舎) ドバイからの帰国初戦がどこになるか読めないが、国内で走るレースのほとんどを勝ちそう。(A) オークス(5月19日、東京芝2400m) レガレイラ(牝3歳、父スワーヴリチャード、美浦・木村哲也厩舎) 昨年のホープフルステークスで、牡馬相手に優勝。皐月賞は厳しそうだが、牝馬同士のオークスなら最有力。(A) 日本ダービー(5月26日、東京芝2400m) トロヴァトーレ(牡3歳、父レイデオロ、美浦・鹿戸雄一厩舎) 新馬戦を勝ったとき、鹿戸調教師が「これ強いよ」と珍しく興奮していた。エフフォーリアで惜敗した悔しさをこの馬で晴らす。(B) 凱旋門賞馬の弟は「距離が延びてよさそう」【安田記念~菊花賞】 安田記念(6月2日、東京芝1600m) ソウルラッシュ(牡6歳、父ルーラーシップ、栗東・池江泰寿厩舎) 過去2年、13着、9着に敗れているが着順ほど差はない。富士ステークスで2着になっているのだから東京も大丈夫。(C) 宝塚記念(6月23日、京都芝2200m) タスティエーラ(牡4歳、父サトノクラウン、美浦・堀宣行厩舎) 昨年のダービー馬。ここを勝てば史上3組目の父仔制覇となる。(B) スプリンターズステークス(9月29日、中山芝1200m) マッドクール(牡5歳、父ダークエンジェル、栗東・池添学厩舎) 昨年は激しく叩き合い、鼻差の2着。テンからスピードがある、典型的なスプリンター。(B) 秋華賞(10月13日、京都芝2000m) アルセナール(牝3歳、父エピファネイア、美浦・木村哲也厩舎) ナミュールの半妹。デビュー2戦目のクイーンカップで不利がありながら2着。素質は相当なもの。(B) 菊花賞(10月20日、京都芝3000m) シンエンペラー(牡3歳、父シユーニ、栗東・矢作芳人厩舎) 凱旋門賞馬ソットサスの全弟。新馬、京都2歳ステークスを勝ち、ホープフルステークスで2着。切れないぶん、距離が延びてよさそう。(B) リバティは「アーモンドアイ級」になれるか【天皇賞・秋~ジャパンC】 天皇賞・秋(10月27日、東京芝2000m) スターズオンアース(牝5歳、父ドゥラメンテ、美浦・高柳瑞樹厩舎) 一昨年の牝馬二冠馬。昨年の有馬記念(2着)まで全12戦で3着以内。ベストは2000mか。(B) エリザベス女王杯(11月10日、京都芝2200m) […]
突出した瞬発力を誇る美少女が、2歳女王による61年ぶりの偉業を阻止した。 第78回桜花賞(4月8日、阪神芝外回り1600m、3歳牝馬GI)を制したのは、クリストフ・ルメールが手綱をとった2番人気のアーモンドアイ(父ロードカナロア、美浦・国枝栄厩舎)だった。61年ぶり、史上2頭目の「2歳女王による無敗での桜花賞制覇」を狙ったラッキーライラック(父オルフェーヴル、栗東・松永幹夫厩舎)は2着に敗れた。 最後の直線で大逆転劇が起った。 1番枠から出て先行した1番人気のラッキーライラックが、ラスト400m地点を過ぎたところで満を持して追い出された。 歴史的名牝の誕生を確信した観衆のボルテージが上がった。しかし次の瞬間、歓声に驚嘆のどよめきがまじり出す。 直線入口では先頭から7、8馬身離れた後方2番手にいたアーモンドアイが、大外から凄まじい脚で伸びてきたのだ。 ラッキーライラックがラスト200m地点で先頭に立った。 アーモンドアイはその3馬身ほど後ろにいたが、勢いの差は歴然としていた。ラスト100mほどのところで並ぶ間もなくかわすと、最後は流すようにして、ラッキーライラックに1馬身3/4差をつけてゴールした。 ルメール「瞬発力はアンビリーバブル」 勝ちタイムは1分33秒1のレースレコード。厩舎の先輩で、2010年に牝馬三冠を制したアパパネの記録をコンマ2秒更新した。 この勝利により、ルメールは武豊と蛯名正義につづく、史上3人目のJRA牝馬GI完全制覇(桜花賞、オークス、秋華賞、ヴィクトリアマイル、エリザベス女王杯、阪神ジュベナイルフィリーズ)を達成した。 「後ろから、直線ですごい脚を使ってくれました。直線では自分から走って、すごくバランスがよかった。瞬発力はアンビリーバブルでした。大人になってパワーアップしていた。自信はありました。距離だけが心配でした。スタートのあとスピードが乗らなかったですが、ラスト20mは素晴らしかった」 一昨年はメジャーエンブレム、昨年はソウルスターリンクと断然人気の馬で敗れていただけに喜びも格別だったようだ。 可愛らしい顔にそぐわぬ破壊力。 8頭出ていたノーザンファームの生産馬が1~3着を独占した。 ともに世界を驚かせたロードカナロアとオルフェーヴルという新種牡馬の産駒のワンツーフィニッシュだったのだが、アーモンドアイの強さばかりが目立った。「世界のロードカナロア」がスプリントGIで見せた末脚をここで繰り出した、と言っても大げさではないほどのパフォーマンスだった。 なお、ロードカナロアにとっては、これが産駒によるGI初制覇であった。 アーモンドアイは「美人とされる顔の目の形」という意味だ。馬名のとおりの可愛らしい顔からは想像もつかないような、凄まじい破壊力を見せた。 桜花賞で、勝ち馬がこれほどの衝撃をファンや他馬陣営に与えたのは、2着を8馬身突き放した1987年のマックスビューティ以来ではないか。61年ぶりの完全女王誕生はならなかったが、31年ぶりのインパクトを、私たちは感じることができたと言えよう。 次走はオークスで、陣営はアパパネ同様、牝馬三冠を目標にしていくようだ。 「長い距離でもイケるし、オークスも勝てると思う。トリプルクラウン(三冠)を考えることもできる」とルメール。
ジャパンカップ・G1」(27日、東京) 目下10連勝中と圧倒的な強さを誇る日本勢。その大将格となるのは武豊騎乗のキタサンブラックだ。春の天皇賞でG1・2勝目を挙げ、秋初戦の京都大賞典では、自身初となる1番人気の支持に応えて好発進を決めた。9月12日に頸椎(けいつい)症性脊髄症の手術を受けたばかりの北島三郎オーナー(80)も順調に回復。当日は東京競馬場へ駆け付ける予定のサブちゃんに、全快祝いとなるVを届ける。 演歌界の大御所・北島三郎の所有馬で、通算12戦7勝。馬券圏外に消えたのはダービー14着の一度のみでG1・2勝-。名実ともにトップホースの地位まで登り詰めたキタサンブラックが、今年の“チーム・ジャパン”の大将を務める。 秋初戦の京都大賞典を快勝。意外にも、自身初となる1番人気での勝利だったが、2番手からでもムキにならず、リズム良く立ち回って鮮やかに抜け出した。「順当だと思う。あの馬らしい走り。気になるところは全くなかった」。派手さはなくとも最後には勝つ。貫禄Vで名手・武豊をうならせた。4月の大阪杯からコンビを組むが「当時よりもたくましくなったね。全体的に力強さも出てきた。もっと良くなりそうな雰囲気もあるけどね」と成長も感じた様子。まだ4歳。伸びしろは十分に残っている。 名手が思う、この馬の強さとは?その質問には「みんなが思っているよりも走るところかな」と周囲を笑わせたが、しばし考えた後に「乗り難しさがない。ゲート内の駐立が悪いときでも、出るのは速い。ハナを切っても、抑えてもいい。あれは武器。だから安定して走れる」と回答。雄大かつ安心感のある背中は頼もしい限りだ。 1週前は栗東CWで6F79秒5の猛時計。一杯に追われ、併せ馬で先着を果たした。騎乗した黒岩は「いつも通り。これでほぼ態勢は整った。既に気も入っている」と納得顔。動きを見届けた清水久師も「言うことなし」と力強くうなずいた。 東京芝は3戦2勝。500キロを超す巨体、大きなストライドは広いコースでこそ真価を発揮する。関東のファンにはコンビ初お目見えとなるが、武豊は「東京でこの馬に乗るのは楽しみ」と目を輝かせる。恐らく、勝っても派手さはないだろう。だが、勝利の先にはど派手な“まつり”が響き渡るかも-。ファンの声援が、ブラックをさらなる名馬へと押し上げる。